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詩誌「艀」(はしけ)

 

>もくじ

晩秋の夜・・・・・・・木下 和彦

みかんの缶詰・・・・・池田 邦博

日常・・・・・・・・・酒井 彰

「雨」・・・・・・・・工 彩女(たくみ あやめ)

父・・・・・・・・・・大場 和正

七月の首・・・・・・・漕達 みどり

夜の風景・・・・・・・小鳥遊 蒼

名月以下六句・・・・・中川 溲瓶

身勝手な「真理」・・・井上 一雄

たぬき・・・・・・・・くれはやし・しゅん

 


晩秋の夜   木下 和彦

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金属の肌触りのような夜でした

胸にがらんどうをのぞいた夜です

抗う力もなくうずくまるほかありませんでした

見回せばいつもの場所に、テレビがあり、ラジカセがあり、

目覚まし時計があり、いくつものコードがコンセントに群がっています

なにも変わっていないのに、そのどれもがよそよそしく落ち着かないのです

テレビ台の中の、雑多なカセットや薬のビンさえ

投げ出された自分の服さえそらぞらしい夜でした

胸にがらんどうをのぞいた夜です

 


みかんの缶詰   池田 邦博

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陽が昇るように明るく生きて行こう

母が老人ホームに行く前の夜に、母は何も知らず

おまえと一緒に缶詰を食べよう。叶わぬ手で

何時間かかっても開けて、食べさせる。

なかなか開かない缶詰を無理に開け、

母が一口食べ、あとは、おまえに食べさせる

おまえは、重度障害者だ 私が死んだら、

皆様の心に残るような詩と絵を描いてほしい

母は涙を流し、缶詰を食べさせ

さあ、寝よう

それが我が家にいる最後の別れでした

 


日常   酒井 彰

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百枚の皿を地面に並べ、私は入念にチェック作業に入る。

作業服の肩ポケットに一覧表を押し込み、

今日の出来高を確認する。

 

空には、今しがた私の押していた

空気が一部縮まり、

一羽の鳩のアンバランスを助ける。

 

トタン屋根のすきまで、

私の飼い馴らしていたヤモリが

驚きの小さな声をもらす時、

 

鳩は自ら思考し、

コンクリートの上におりたつと

ためらわず歩きだした。

 

君、君、それは、いかなる衣装かねと、

反転を得意とするヤモリは尋ねる。

私は、ただ事でないこととは何事かと

思案に暮れながら何事もなかったかのように

その場を離れた。

 


「雨」   工 彩女(たくみ あやめ)

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ライトに光る雨つぶを見て

雨が直線に落ちることに気がついた

 

夜霧の中で

車を走らせるわたしの心のように

雨は窓にぶつかって

弾かれて

飛ばされて

そして流れて

時間のままに変化していく

 

冷たくなったり

暖かくなったり

荒れた

穏やかになったり

 

そして、また雨に戻る

 


父   大場 和正

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ゴミを喰らい

便をなすりつけ

元兵士は徘徊を繰り返す

戦後半世紀

新たな戦争は

畳の戦場で開戦の通告もなく

父は再び兵士にもどり

僕らの手にした

日常という

平和という

家庭という

優しさという

陣地に向かって

突撃を繰り返す

ここは父の陸軍

ここは父の満州

ここは父の正義

裁きもなく

許しもなく

答もなく

大儀もなく

父が父たる戦争に

咆哮をあげて参戦せよ

僕のおかずを手づかみで奪いながら

父は言う

 


七月の首   漕達 みどり

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パエリヤのライスと共に冷凍された

ビニールに入れられた彼の首

それを胸に抱いて泣き続けた

大祭の先頭に立ち雄叫びをあげ

仲間によって打ち落とされた

祭りは嫌い あれほど言ったのに

ジャングルジムの上の勇姿

それが最期

レポーターたちは何も知らない

そして誰かがいた

 

奈落に倒れそうになった私を助けた

白く細い指

けだるい声が聴こえていたの

麻酔のきいた頭で考えた

何も関係ない

あれは優しい口調だった

急な坂道

田園の中

少しも進まない足どり

高速道路の高架の下

散らばったパエリヤ

彼の身体を探しに行こう

今は七月

腐り果てるにはまだ早すぎる

 


夜の風景   小鳥遊 蒼

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風はやけに温かく黒髪に漂う夜の香り

肩越しから聞こえる夜の声

夜が消える理由ではないけれど

それを僕は自由に支配している

何度も繰り返すメロディーに

とても静かに絶叫していた

無感動の中で暗殺を覚え

砂丘の中で影踏みを覚え

狙う心臓は誰に何処にあるのか

黙認することが幸せなのか

知ってしまえば僕はきっと悲しくなるに違いないから

時は夜になろうが呼吸の仕方さえも思い出せない

風紋の重さを計れないでいる

僕の身体は決別してゆく

だから僕は僕がいることを認めなければならない

夜が恐い理由ではないけれど

黒い風が大地より遥か高くに動いているのがわかる

この無常から解放される頃

人々は朝の香りに包まれているだろう

 


名月以下六句   中川 溲瓶

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名月や棚に置かれたはずれ籤

立冬や窓の向こうの車椅子

小春日に居留守きめこむ隣かな

お歳暮に一茶の町の林檎くる

ゆきひらの底まで響く虎落笛

軽トラの物売る人に日脚延

 


身勝手な「真理」   井上 一雄

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ぼくはぼく自身の狂気によって

自分の都合のいい「真理」を手に入れた

それは

聖人も犯罪者も

同じ<われわれ>であるというのだ

皆が<われわれ>であるならば

誰とでも仲良く出来るのだ

ところがこれがなかなかムズカシイ

<粘りつく自意識>が好き嫌いをする

でもぼくには

この「真理」を実践するしか

救われる途はないのだ・・・

 


たぬき   くれはやし・しゅん

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山川のサービスエリアから、くだり高速車線

南関インター 手前5キロポイント

深夜2時 たぬきの看板がある

そのポイントの真下で

おれのアコードは よりによって 子だぬきを はねた

なぜ おれが たぬきをはねなければならなかったのか?

たぬきは、何を考えながら死んだんだろうか? その時 おれは何を考えながら

走っていたのか? いまでも よくおもいだせないのだ

 


●編集責任者 くれはやし・しゅん

●連絡先e-mail:moyai999@mutugoro.or.jp

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